<第167回>
軍司育雄さん
(聞き手・編集長 吉清英夫)


経歴:(ぐんじ・いくお)日本司法支援センター(法テラス)理事。一ツ橋大学卒業。昭和45年 弁護士登録(第一東京弁護士会)平成15年 第一東京弁護士会会長・日本弁護士連合会副会長 現在日本司法支援センター(法テラス)理事・東京地方事務所長兼務。市川在住。


世間を明るく照らせ「法テラス」

司法社会へ変化する日本

吉清: 世間では、多重債務や、いじめなどによる自殺、老齢、離婚、金銭がからんだ諸問題など日常ニュースです。一般の人が弁護士さんの力に頼らなければいけない局面がどんどん増えてきましたね。しかし一方ではどうやって司法にアプローチすればいいのかがわからない人がおおい。
軍司 大学の授業料を前払いしたものを返すべし、との最高裁判決とか、本当に生活に密着した司法問題がおおくなりましたね。
  司法というのは、どこの国でも昔から生活に密着していた筈ではあるんです。しかし日本ではお役所といえば行政となる。明治以来そういう頭できましたから、本来生活に密着するべき司法というものが、普通の人にとって、かかわりにくいイメージをもつ事になってしまった。
吉清: 国民にとって、司法の世界というのはまだちょっと敷居が高いですね。
軍司 そういう風に国がもっていってしまったわけですね。別世界の存在でどう接触していいのかわからない。それを今変えようというわけですね。
  もとはというと小泉改革の一環ではじまった。行政部門がスリム化でどれも予算が削減されている中で司法関係は日本では先進国に比べて遅れていたという認識があり、予算を伴う司法制度改革が行われた。
  裁判員制度という、欧米のような国民参加のシステムも始まります。そして日本司法支援センター(法テラスです)それから欧米のように大学の上に法科大学院ロースクールが設立されました。大学で医学部や経済学部をでた人でも広く受け入れ多様な人材を育てます。五年前の司法制度改革審議会が絵図をかいて法律をつくり、既に裁判員制度以外は実施されています。
吉清: 改革の一つ、司法支援センターは総合法律支援法に基づいて昨年の10月から、動き出したわけですが内容をすこし教えてください。“法テラス”という愛称はとても安心感がありますね。
軍司 ええ、ありがとうございます。国の税金で、全国に作られた司法支援センターの本来業務は大きく五つです。一番目は情報提供業務、法制度に関するトラブルを解決する機関。弁護士や税理士などの専門家、裁判所などを紹介する業務。司法アクセスの改善、要するに道案内のようなことですね。それが今まで不十分だったから情報不足によって市民は別世界だと感じていた。
  二番目は法律扶助です。お金が無い人に弁護士をつけてあげる。民事の方の国選弁護人のようなものですね。
  三番目は刑事部門。国選弁護人をつけることになっていますが、法テラスが弁護士会と裁判所の間にたって弁護士会から名簿を貰い、裁判所に必要な都度推薦します。
  四番目は犯罪被害者支援です。これも他国に比べ日本が遅れていた分野なのですが。
吉清: これはいろんな事件で問題になりました。被害者の人権がカヴァーされないと。
軍司 そう、加害者の人権ばかりがクローズアップされて被害者のそれは省みられなかった。「加害者の死刑は重すぎる、廃止せよ」とか、そういう意見がある事自体は健全なのですが、では被害を受けた人はどうなってしまうのだと。裁判が進んでいるのかどうかもわからず、国から連絡も無く、発言する場もない。加害者には、国選弁護人がつけられているのにです。それは酷いんじゃないか、という事で犯罪被害者に対する支援も、法テラスでやってゆきます。
吉清: それで五番目は?
軍司 最後は過疎対策。司法過疎です。一昔前、過疎地はお医者が足りないという事で問題になりましたが、それが解決すると今度は弁護士が足りないという問題が表面化した。弁護士がいない、司法書士がいないという地域が相当数ある。弁護士会も日弁連とあわせて努力していましたが、これは税金ではなくボランティアだったので根本的な解決にはいたらなかった。やはり国費を投入して、地方の人たちにも司法アクセスを保障するのが国の義務であるということで、法テラスで直接弁護士を雇ってその弁護士を法テラスの判断で佐渡ヶ島とか地方に送り込む。既に25人、そういう場所で働いています。今後とも増員して全国的に行っていきます。

<中略>

弁護士を増やそう計画

吉清今後、この方向で進めば確実に弁護士さんの数は足りなくなりますね。
軍司 はい。そのための仕掛けが先ほども出たロースクールです。数年前まで年間500名ほどしか司法試験の合格者をだしていませんでした。裁判官、検察官、弁護士含めて年間500名。これではあまりにも少ない。世の中の動きに対してはとても足りません。ここで急激に増やし、今年は2000名。最終的には3000名まで増やしていこうという形にしています。
  今現在、わが国の弁護士の数は全国で21000人。その内の半分が東京にいます。
アメリカでロースクールを卒業して法曹資格を持つ人間が今100万人ほどいます。それは資格ですので、そこから国会議員になる人もいれば、経済活動をする人もいる。もちろん弁護士になる人もいますが、中にはタクシーの運転手をしている人もいるそうです。
吉清: え、アメリカには弁護士資格をもったタクシー運転手さんもいるんですか。
軍司 日本では、まだそこまではいきませんが。とりあえず、フランスぐらいにはもっていこうというのが国の考えです。フランスの人口は日本の半分、弁護士の数は5万人です。そこに持っていくには、年間3000人くらいの合格者は必要だろうという事になりました。
吉清: それでも、フランス並になるにはまだ10年以上はかかるんですね。それから、法律における理と情ということですが。
軍司 弁護士というのはよく論理の職業と言われています。論理則と経験則そして法によって、人を説得する。
吉清: すると、そこには情の入り込む余地はなくなってしまわないか?
軍司 いえ、そこは経験則としての情が介在します。
吉清: 人間の行為を裁こうとするわけだから、それは必要でしょう。
軍司 やはり冷たいだけでは人は説得できません。なにかを命令して、という仕事ではありませんからね。私はもう30数年弁護士をやっていますが、人を説得するといってもそれに応じるかどかはやはり相手次第。いくら論理則、経験則といっても相手が納得しなければどうにもならない。
吉清: もう一つ、今度開始される裁判員制度は一般市民が人を裁く制度ですね。素人がやっても大丈夫なのかなと、思いますが。
軍司 これは市民も一緒に考え作り上げた答え、その一点に説得力があると思います。
裁判官や弁護士だけだと、やはり経験や価値観に偏りがでます。それを正当化するために普通の市民の方々の経験を借りてこようというわけです。
吉清: いつから開始されるのですか?
軍司 法律は既にできていて、平成21年から開始されます。選挙人名簿から抽出されランダムで決まる仕組みですね。家庭の事情 ― 要介護者を抱えたりという事があれば ― これを、除外します。最終的に、被告人にまったく面識、関係の無い人間が集められて行なう事になりますね。この支援センターもこの裁判員制度を睨んで作られています。というのも、この裁判員制度を導入すれば、いままでよりもはるかに早く裁判が進みます。そうしないと、裁判員も困りますからね。連日的に審議を行い、早く終わらせる。そうすると弁護士も大変で引き受け手を捜すのに苦労する。そのとき、この支援センターからも弁護士を派遣する。
吉清: すると、弁護士同士のバッティングが起きてきませんか。問題が起こるように感じますがその点は大丈夫なのでしょか?
軍司 それは、先ほどのコールセンターにかかって来る電話と併せ潜在的な案件を表面化させることで数が増えるので逆に弁護士業務は活性化すると思いますね。
吉清: ところで軍司さんが司法に入った動機はどんなものだったのですか?最初から弁護士になるつもりだったのですか?
軍司 最初から、弁護士になろうとしたわけではないんです。奨学金を貰って学校に通っていたので、何年浪人しても弁護士になってやろうという気はありませんでした。たまたま一橋大学在学中に司法試験に合格したので弁護士になったのです。もし在学4年間で受からなければ内定していた鉄鋼会社などに就職していたと思います。
吉清: 通常六法全書は日本国憲法 民法 商法 刑法 民事訴訟法 刑事訴訟法ですね。軍司さんのご専門、民事はお互いの主張が入り組んで判決も難しそうですね。
軍司 ですからそこは経験則と論理則、そして法に基づき公正に判断することが大事ですね。日本は、誰もが自由に主張し、ものを言える自由の国ですから最終的に紛争を決着させるのはやはり、司法でなくてはならいのではないかと思っています。そして、それが一番透明で公正な社会ではないかと考えています。
吉清: 今日はむずかしい司法の世界をわかりやすく話して下さり、ありがとうございました。いざ、という時の「法テラス」ですね。この愛称はやっぱりいいな。
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